カムカムエヴリバディ 安子編 21話
全部戦争のせいじゃ
まちがえてはいけない。悪いのは全部戦争なのだ。
でも、戦争はあまりに大きなもので、怒りをぶつけるには等身大のものでなければならない。
かつて、彼女が息子たちを奪われた時、殴りつけたのはラジオだった。
戦争が終わり、稔を奪ったものは戦争ではなく、そもそも結婚を反対した=自分から稔を奪った=嫁という図式が成り立ってしまい、悪いのは嫁へとスライドしてしまったのだ。
安子は雉真家の嫁だけど、子供まで生んでいても、稔とともに馴染むにはまだ時間が足りなかった。
安子と美都里とどちらを守るかとなれば、千吉さんが糟糠の妻を選んでもしかたがない。
安子はまだ若い。再婚して新しい伴侶を得れば稔のことを忘れて幸せになるだろう。るいのことは再婚の足かせになるから、我が家で稔の忘れ形見として育てよう。そうすれば美都里の悲しみも癒せるだろう。
多分、仙吉さんもそんなふうに考えたのではないか。
この時代、シングルマザーが子供抱えて一人で暮らしていくのはベリーハードモードだろう。雉真の家の中は凪いだ海のように穏やかだけど、外の世界は厳しい。
仙吉さんの行動は、当時としては夫も実家も亡くした嫁に対しては誠実だと捉えられるだろう。
しかし、稔が好きで結婚した安子が納得するわけはないんだよね。
それは勇にとってもそうだった。大好きな兄と初恋の人が思い合って結ばれたのだから、それは勇にとっても守らなければならないものだったんだよね。