映画/合葬
画面は美しく、しっとりとして、キャスト誰もが艶っぽく魅力的に撮られていたと思う。ところどころ差し込まれる怪異の物語も、杉浦日向子的世界の再現を目指したものであろうし、これから訪れる破局を予感させるものとして効果的であったと思う。
(最初に、柾之助が格子戸の向うで腐ったものを見かけたが、その後格子戸越しに外を見るカットが何度もあったのは、その腐ったものが観てる感じを思い起こさせて、ひんやりしたものを感じた)
ただ、予算の加減かもしれないが、上野戦争の描き方があまりにあっさりしすぎたため、ラストのあたりがちょっと物足りなかった。戦争が起こるまでの若者たちの時代に突き動かされた衝動が、戦争という現実の悲劇に打ちのめされていく悲劇あってこその物語だと思ったのだけど、この映画ではおそらく、極という青春の熱と狂気を秘めた青年にみんなが惹かれる物語として原作を解釈したんじゃないかと思う。
(カリスマという言葉が出ているし)
以下ネタバレ+原作バレ
だから終り方もああだったのかなあと思うのだけど、私は原作をそう解釈しなかったというか、むしろ極から開放された柾之助の孤独と自由が表現されたあのラストの青空を映像にして欲しかったかなあ。
会津に向かっているのかどうかわからなくなっていた。
疲れてはいるが歩みは止まらない
止まらぬどころか
はずみをつけて速さが増してくる
ついには地を蹴って天駆くるかのような心地になり
額を
頬をきる風を感じていた
どろどろになり、闇の中極と柾之助は逃げまわり、極の実家にたどり着くも疎ましがられて、再び二人は逃亡するけれど、結局目的を失った極は切腹する。
その後、介錯した柾之助が小屋の持ち主からおにぎりをもらったあと、映画では写真を見て過去を懐かしむのだけど、原作では柾之助は上の引用の通り、会津へ向かうと言いながら初めて自由になるんだよね。
(そして結局行き倒れてしまうところが、むしろ怪異描写より杉浦日向子らしくて面白いんだけど)
私は、まだ極という行き先を失っても、エネルギーを持て余して未来へ走っていくる柾之助の若さと熱が好きだったので、最後に写真を見て過去を振り向いてしまう柾之助には残念だったなあ。
ラストに小夜を持ってきたのも、極が愛されており、誰もが生きるよすがにしていた、という解釈だったのかなあと。
物語としては筋が通っていると思うものの、やっぱり原作ファンとしてはちょっと違うかなという感じだったかなあ……。
ただ、極という誰もが愛さずには、惹かれずにはいられない、強烈な熱を持った青年を柳楽優弥の演技はとても説得力を持って演じていたと思う。まさに柳楽優弥ならしょうがない、と納得せざるを得ない。
また、門脇麦がほんの少しだけの出番とはいえ、内に熱い情熱を秘めた女性として、存在感を発揮していたと思う。着物姿の所作も美しく、凛としつつ、そこはかとなくエロスを感じる不思議な魅力のある女優だと思った。
オダギリジョーについては、さすがの貫禄。原作の森さんの飄々とした雰囲気に色気まで足してて眼福だった。横笛を吹くシーンのなんと美しいことか。
全体的に美意識の行き届いた作品だったがゆえに、原作解釈の違いはあれど、やはり上野戦争のあたりの描写が肝心だったと思うので、そこだけがつくづく残念である。