映画/カメラを止めるな!
TwitterのTLで「面白い」という評判がちらほらと流れて来るようになった。TLにはいろんな作品の評判が川のように流れてくるのだけど、カメ止めはなぜか目に止まるようになってきた。だいたいこういう場合、私のTLの評判に裏切られることはまずないんだよね。
調べてみたところ、東海地方ではシネマスコーレでしか公開してなかったのだけど、連日満員とのこと。これは観るのは無理かなーと思っていたら、あっという間に上映が拡大。TOHOシネマズ名古屋ベイシティでも上映されるとのことで、あおなみ線に乗ってお出かけしてきた。
さて、事前情報では「ゾンビ映画を撮ろうとした映画チームの元に本物のゾンビが現れる」「冒頭37分ワンカット」ぐらい。それ以上は皆、何かの信仰ですかってぐらい、観てきた人の口が堅い。
じゃあまあそれ以上知らなくてもええんですねと。
レディースデーだったんだけど、普段ガラガラのベイシティの箱がほぼ満員。もしかしてと思って前もって予約入れといたけど正解。なお女性だけじゃなく男性もたくさんいらしたので、レディースデー効果ではなかったと思う。
さて、内容に関しては、とても面白かった。ただこれは確かに大作映画とは違う種類の面白さだと思う。
ほぼ満員の劇場は最初のうちこそ緊張していたものの、とある掛け声が聞こえるようになってきてから、こらえきれず吹き出す人が増え、後半は爆笑につぐ爆笑。映画館であれだけ観客が一体になって笑ったのは久しぶりじゃないかな。
面白さの距離が自分にとても近いというか。テレビドラマの近しさともまた違う、自分との物語の近さや、重なるものを感じた。
多くの人を惹き付けてるのは、この物語で描かれてるドラマは自分の中に確かにあったものだと、思い出すからじゃないだろうか。
あと、なんといっても、物語は「構成」と「人物描写」が肝だとつくづく思った。
構成の見事さは後述するとして、人物描写、これが素晴らしい。短い描写でこの人がどういう人かということを表現し、どういう行動をこの状況で取るのか、ということがきちんと観客に伝わっている。
だからこそ後半の盛り上がりに繋がるわけで、その人物の過去をずらずら書き連ねなくても、必要な部分を適格に表現すれば、どんな人物かちゃんと分かる。
出来上がったドラマは、きれいに刈り込まれた植木が配置された美しい庭になる。
……と、ネタバレ無しで映画をおすすめするのは難しいのだけど、なんでゾンビもので自分への近しさを感じるのか? と思われた方は、ここまでで劇場へお出かけしてほしい。
では、以下ネタバレ。
……いいかな?
劇中劇の劇中劇だろうな、というのは割と早い段階で察しがついたんですよね。
劇中劇というメタ視点が提示されてるので、さらにメタ視点があるだろうなと。あと、見切れてた音声さんの行動がドラマの行動原理と合ってなくて、これ絶対なにか意味あるなと思ってたのに、結局突然ゾンビになって放置だったから。
37分ワンカットということは、カメラが無いところで何かが起こっていることも想像がつくし。
だから、エンディングが出たあとのところで、やっぱりなと。
でも、ここからが熱かった。
むしろここから、観ていた私達もドラマに引きずり込まれていったと思う。
ドラマの当事者になった感覚。ほんとは無関係だけど。
生放送のゾンビドラマという無茶振りされてるけど、作品がちゃんと完成していたのはわかっている。だから、苦労しつつも完成するんだろうなとネタバレされている状態なんだよね。
なのに、最初の打ち合わせからの前途多難な状況を見たら、今度は「どうやって???」とならざるを得ない。
前半の「どうなるの?」から、後半は「どうやって?」。前半後半で観客の興味を違う方向へ持っていくのは上手いよねえ。
前半のゾンビドラマで演じたキャラのイメージが残ったままなので、キャストの本性と当然ギャップが起こるから、「この人は本当はどういう人?」と興味が湧いてくる。キャラの性格を把握したところで、ドラマの撮影に入り、次々と起こるアクシデントにまるで撮影を見学してる当事者のような感覚に陥っていくんだよね。
他の方も言ってるけど、キャストが無名なのも効果が大きい。俳優と観客の垣根が低いので、だんだん彼らと一緒に撮影現場に同席している感覚にもなる。話が進むに連れ、最初に生放送見ていた時の違和感がどんどん解明していくので、現場にいるような感覚に加えて、撮影を俯瞰して見ている感覚、両方が一緒に自分の中に存在するようになる。
その最後の最後、ラストの上空からの撮影の解決と写真を観た瞬間に、その撮影隊への感情移入と物語すべての構造が一挙に収束して、キャストとスタッフにガン見されてるのに爆笑しつつ、気づいたら胸が熱くなってぶわっと来てました。
映画っていいよねえ~ドラマっていいよねえ~。
そしてみんなでいいものを作るために頑張るのっていいよねえ。
この物語は映画の制作現場を描いてるけど、私達の日々もこんなふうに次から次へと起こる想定外の出来事を、自分の判断で、家族の力で、友達や仲間の手助けで、とにかく乗り越えていくんだよね。
そうして出来上がったものは、スマホポチポチしながらながら見されるものかもしれないけど。
Show Must Go On.
私達のカメラは、私達の人生は、止めてはいけない。
ぽん!
追記:Twitterによれば、37分ワンカットのEDで映画が終わったと思って、退場した人がいるらしい…。ネタバレしないのも良し悪しかもしれないけど、さすがに気づいてー。